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Fig.1. World distribution of primary production/(From Odum, 1959)

 

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Fig.2. Economic system vs. ecological system.

 

い。したがって、生態系の変化に対応したこれまでよりも長い時間規模の変動現象に照準を合わせた評価の方法を確立していくことが課題の一つとなる。オランダの北海沿岸で数年前に提案されたアメーバ法による現境評価では、評価のべースライン(reference system)として、?自律性、?持続的生産性、?豊富な種多様性の3つの条件を満たす生態系が定義され、具体的に1930年頃の状態を理想像として、その当時に対する生物種組成の相対的な変化を巧みに可視化しながら、環境の評価や管理計画の策定が進められている2)。ともすれば対症療法的な対応に終始しがちなわが国の環境対策の現状を考えれば、長期的な展望のもとに諸施策を講じその効果を評価していくこのようなアプローチには参考にすべき点が多い。
ここでは、沿岸海域の生物生産や資源の再生産を支える生態学的な仕組みや機能に基礎を置いた生物生息場の評価について、基本的な考え方と方法、これから取り組むべき課題について述べる。

2. 生態系の機能のとらえ方:評価の指標

生態系にもとづいて沿岸の生物生息場の現境診断や評価をしようとする場合、生息場のどのような機能に重点を置くかによってその具体的な指標が変わってくる。沿岸海域の生態系には最初に述べたように各種の重要な機能があるが、評価の対象として大きく類別してみると以下の3つに集約できよう:(1)物質循環・浄化の機能、(2)生物資源の育成・生産の機能、(3)生物多様性による環境安定化の機能(緩衝作用)。(1)は主に生態系の低次栄養段階の生物生産、(2)は漁業の対象になるようなより高次の生物生産につながる機能であり、(3)はそれらを総合した生態系全体の機能の円滑さや健全性をあらわすものということができる。これらはオランダ北海沿岸で評価のべースラインとなる生態系の持つ条件として呈示された上述の?〜?にもそれぞれ対応する。以下に、わが国における検討事例を中心に具体的なアプローチの仕方を述べる。
2−1. 物質循環・浄化機能の評価
沿岸海域に陸から流入した栄養塩類などさまざまな物質は、物理的に輸送・分散される過程で生物などの作用により消費され、あるいは存在形態を変えながら海域内を循環し、いずれは外海や大気などとの境界から外に出ていく。この物質循環の流れが円滑でどこにも過不足を生じないのが理想の状態であることはいうまでもない。逆に、わが国のとくに富栄養化の進んだ内湾域などで大きな問題の一つとなっている海域底層の貧酸素化は、海底に過利に蓄積された有機物などが循環のパイプを詰まらせた結果引き起こされる現象といえる。閉鎖性の強い内湾域などでは、栄養物質などの循環や収支、それに伴う溶存酸素の動態を十分に把握しておくことがとりわけ重要であり、そうした量的な見積もりを基礎として環境改善方策の検討やその効果の評価が可能になる。
一方、三河湾沿岸の一色干潟においては、干潟の浄化機能の評価を目的として同様の観点から栄養物質(ここでは窒素)の収支に関するボックス

 

 

 

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